見出しの作り方

書体を選ぶ

モリサワ パスポートFONTWORKS LETSなどの登場によって、デザイナーはかつてないほどの多書体を使える時代になりました。いろいろなフォントを選ぶのはとても楽しい作業ですが、どれを使っていいのか迷ってしまうことがあります。
声優によって台詞の印象が異なるように、書体には独特のトーンやリズムや思想が存在します。また、ウエイト(太さ)によって声の調子もさまざまに表現できます。どんな内容の台詞をしゃべるのか? しっとりとした調子なのか、とにかく大声で目立ちたいのか、きっと「ぴったりとくる」書体があるはずです。
書体分類には「ゴシック体」や「明朝体」などの分け方もありますが、ここでは便宜的に3つに分類してみましょう。*1

・活字由来の伝統的書体
多くは活字字母を基本にしてデザインされ、長く使われてきた書体です。主に本文組版を想定してデザインされていますが、見出しに使っても上品な雰囲気を出せるでしょう。

・フェイスの大きい現代的書体
写植時代(写研のナールやゴナなど)から使われ始めた現代的な書体です。フェイスが大きく、視認性に優れています。近年登場したUDフォントも基本的にはこの流れを汲む書体です。見出しに使うとスタイリッシュな印象を与えます。

・独創的な書体
クセの強いディスプレイ書体です。ぴたりとはまれば絶大な効果がありますが、汎用的な使い方の難しいデザインです。さしずめアクの強い怪優といった趣きで、使いどころを間違えると途端に陳腐な印象を与えます。

大きさを選ぶ

見出しの大きさを決定する時、2つのプランがあります。ひとつは大見出しだけを突出して大きく見せる方法、もうひとつは本文より少しだけ大きなサイズを選ぶ方法です。一番避けなければならないプランは、中途半端に大きな見出しです。
例えば本文が9ptで小見出しが10ptだったら、大見出しには20pt以上の大きな見出しを使います。メリハリのある見出しは紙面に強弱を与えて「わかりやすい」印象を得られるでしょう。

大見出しに12pt程度の小さなサイズの見出しをつけるのも面白いと思います。この時、見出しの前後に十分な余白が取れるなら、上品でさりげない印象になります。ただし、こちらはちょっと上級テクニックです。書体の選び方にも注意が必要です。

ツメる

美しい見出しには文字ツメが欠かせません。文字ツメされてない見出しなんてセクシーじゃありません。しかしながら、InDesignの文字ツメはいろいろな方法がありすぎて、迷わない方が不思議なくらいです。そのおかげで、あれもこれもいろんな文字ツメ機能を使ってぐちゃぐちゃになっているデータをよく見かけます。あれはいただけません。
文字ツメについては、いろいろな識者の方々がさまざまな検証をされていて、わたしなど太刀打ちできないです(下記see also)。が、そんな逃げ腰でも申し訳なので自分のやり方を少しだけ紹介させていただきます。わたしはたいてい下記の3段階で文字ツメを設定します。

1)見出し用の文字組み空き量設定を作成する

文字組み空き量設定では、括弧類や句読点などの半角約物和文と欧文の間などについて設定しておきます。この設定で仮名どうしのツメのためにマイナス設定などをするのはよくありません。

なにかと「難しい」と言われる文字組み空き量設定ですが、気に入らなければ変えればよいのです。書体や字形の並びによっても最適値は変わります。標準的なものをひとつ作って用途によってカスタマイズすればいいと思っています。とことんトレーニングしたい方は「Adobe InDesign 文字組み徹底攻略ガイド 第3版」などを参考にするとよいでしょう。

2)文字ツメで詰める

わたしは「文字ツメ」派です。すいません^^ その理由は主に書籍での利用の場合、ツメ具合を数値でコントロールできるからです。書籍の用途によって、ゆるいツメからキツいツメまで変化が付けらるからです。

「文字ツメ」が嫌われる理由のひとつは欧文も詰まってしまうからじゃないでしょうか。これは確かにいけません。しかし、InDesign CS4では「正規表現スタイル」が使えるのです。文字ツメ0%の文字スタイルを用意しておいて、「[!-}]+」を指定すれば解決します。

文字ツメには流行があります。かつては「ツメツメ」と呼ばれるキツいツメが流行りました。しかし現在では少しゆるめのツメでゆったりと組まれたものが多いようです。

3)手で詰める

最後は「カーニング」を使って手で詰めるんですよ。特に扉のタイトルとか、食い込みとか気になるところは見た目で詰めたり開いたりしないといけません。それはどんなツメ方法を選択していても同じだと思います。

数字や約物を変える

通常の書体では、数字やアルファベットが日本語のフェイスよりも若干小さくデザインされています。そのため見出しのような大きなサイズで表示すると、なんだか字面が揃っていないような印象になります。また、括弧類や句読点が太すぎて気になる場合もあるでしょう。

こういう場合は、「合成フォント」を使ってください。試しに、数字とアルファベットを欧文フォントにし、括弧類と句読点を同じファミリーの細いウエイトに変えてみましょう。


「合成フォント」を使うと、かなだけを仮名フォントにしたりすることもできます。また、数字のカンマの形(だけ)が気になる場合なども「特例文字」を使用して差し替えられます。

飾り

見出しには段落罫線(下線)や平網、囲み罫やアイコンを配して飾り付けをする場合があります。ただし、あまりデコレーションしすぎると却ってくどい印象になります。たまに見かけるのは、大見出し・中見出し・小見出しのすべてに段落罫線がついている見出しです。これはいけません。さりげなく飾るのが大人の身だしなみです。

InDesignで気をつける属性

最後に、InDesignで見出しを作成する場合の設定でちょっと気をつけておきたい箇所を指摘しておきます。

  • 左揃え
  • 段落分離禁止オプション - 次の行数を保持:1行
  • インデントとスペース - 段落前のアキ:任意
  • 行取り:フレームグリッドを使用時に任意

セオリーを壊して...

書籍にしろ、カタログにしろ、チラシにしろ、見出しは紙面の重要なエレメントです。しかし、アプリケーションが進化してしまった現在、本来の見出しの重要性や組み方がないがしろにされ「単なる文字」として配置されているのは悲しいことです。もっと見出しに愛を! という気持ちからエントリーを起こしました。ちょっとした知識や工夫で、もっと強く、エレガントな見出しが出来ます。
今回いくつかのセオリーについて書きましたが、もちろんこれが全てではありません。セオリーを知り、あえて違う手法をとることもあるでしょう。あるいはもっとたくさんの知恵もあろうかと思います。お気づきの点があれば、お気軽にコメントしてください。

*1:この分類法はアカデミックなものではありません。説明のための便宜的なものです。

女子高生とぼくとKindleと

先日、ぼくの友人が、高校生のお嬢さんについて興味深いことを言っていた。小説などの印刷物は「縦書き」だから読みにくいんだそうだ。彼女はいわゆる「活字嫌い」ではない。メールやケータイ小説、もちろんマンガなどはなんの苦もないのだという。いったいどこが違うんだろう?

(ぼくだけなのかもしれないが)40過ぎたおっさんにとってケータイの文字はとてつもなく読みにくい。文庫本でなら長編小説も読めるけれど、比較的短いケータイ小説ですら、ケータイの画面で読むのはちょっとしんどい。上図はケータイと単行本の標準的な1画面を再現してみた。*1
もちろん、ここで示したいのは「私的スキキライ」や「現代ワカモノ考」じゃない。どっちが上等だとも思わない。ただ、現実に左画面が読みやすいと感じる乙女と、右画面が読みやすいと感じるおっさんがいるだけの話だ。*2 要するに、読みやすさとか可読性とか、何か絶対的な基準が存在してるわけじゃない。*3


...前置きはこれくらいにして。
米国ではAmazon Kindle(アマゾン・キンドル)が大きな潮流になりつつある。ユーザーは安く、早く、便利にeBookを利用している。普及率や売り上げ規模から見ても、すでにひとつの媒体と言ってもいいくらいだ。この流れは米国に留まらないだろう。
しかし、日本国内でeBookの話題はほとんど聞かない。○○ブックフェアは大人のコミケの域を出ない。たまに流れるニュースは山師の失敗談くらいだ。国内の出版業の多くは中小企業だから、システマチックな成功モデルが待ち望まれているんだろう。たとえそれが外資だったとしても。
出版業界には(当然ながら)読書家も多く、装丁やデザイン、紙質や印刷などにこだわりを持っている方が多い。素材やプレイヤーとしての「本」に対する思い入れから、eBookを必要以上に軽んじてはいないだろうか。*4 最初に引用した通り、少なくとも彼女にとって「読みにくい」商品を作り続けていないだろうか。
日本版Kindleがどのような仕様であるかまだわからない。初期製品ではPDFやいくつかのラスターイメージを再生するだけかもしれない。印刷とまったく同じ紙面をそのまま書き出すのならば、既存のレイアウトデータから簡単に変換できるだろう。しかし、製品が日本語特有の文字組版をシミュレートするならば、縦横組、1行の文字数、フォント、行送りなどが設定によって可変にならなければならない。この時、日本のDTP技術者はきちんとした(論理的にコンテンツとデザインを分離した)データを作れるだろうか? その日まで技術者は残っているだろうか?
空想は現実離れするばかりだ。

*1:ケータイは15文字、単行本は43字として、行送りはそれぞれ1.3倍と1.9倍としてある。ケータイは新丸ゴシック系で、単行本はオーソドックスな明朝系の文字を使用した。

*2:少し話しが変わるけれど、小説の速読法のひとつに台詞部分だけを読んでいく方法がある。この時、1行の上半分くらいをざーっと流して読んでいく。台詞の行というはだいたい1行の3/4くらいしかないので、半分くらい読むとあとは語尾やいい回しになってしまう。だいたい何を言っているかを繋ぎ合わせると筋が読めるという具合だ。なにが言いたいかっていうと、ぼくと彼女とでは一度に目にする文字数(バッファ)が違っているんじゃないかってこと。ケータイでは1行、またはそれ以下の文字数を「処理単位」として行送りも狭い。単行本では句読点までのセンテンスを追いながら読み進めるから逐次処理となり行送りも広い。新聞の大活字化が進んだ頃、一度に読める文字数に対してとても違和感があったのを思い出す。

*3:もちろん、文字組版として専門的な見解はあるよ。だけどそれはせいぜい偉い先生の受け売り程度のことで、なにか絶対的な基準に則っているとか、すべての場面ですべての人に共通して適用できるものはないってこと。

*4:LPレコードがCDとなりiTunesとなった今、ジャケットデザインやマニアックなカートリッジの蘊蓄よりも、価格や検索性やネットワークの価値がどれほど高いかを既に学習済みなのにね。

欧文の凸版植字&印刷

活版ラブなお友達にはたまらない動画。欧文の植字を紹介しているのはちょっと珍しい。

JOB CASE


これは活字箱の文字配列。「e」がもっともたくさん入るようになっている。中段でもっとも取り出しやすい部分を占めるのは「mnho」になっている。こうした順序を見ると、(キーボードに見られるような)作業的な配置というよりもアルファベット順が強く意識されているような気がする。
なにより、活字の収納が無造作で方向がバラバラなのは驚いた。ひと文字づつ天地を見てるのか?(あるいはこのおっさんだけの怠惰なのだろうか?) さらに活字箱がこんな簡素なケースに入っていて、1セット分が引き出しになって収納されている姿は日本語活字ではありえない(w

LEADING


いわゆるインテルのこと。行と行を挟んで行間を決定する板。欧文組版では使わないか、きわめて薄い板を用いる。

QUADS for KERNING


カーニングのためのクワタ。そうか、クワタはフォントとは関係ないからピルケースみたいなプラッチックケースに入っているんだな。なるほど。

COPPERS and BRASSES


これはプロポーショナルで組まれる欧文ならではの約物。ラグ組みにしても植木にしても、必ず端数になるから行長にそろえるためのもの。日本語の活字だと(禁則のために)せいぜい8分を使うくらいだと思う。それにしても活字の原料は鉛合金(鉛:錫:アンチモン)だから素材のちがうものを混ぜて組版しても、再鋳造で困らないのだろうか? 完全に解版して再利用するのだろうか?

GUIDE PINS


これは印刷用紙の位置を決めるためのガイドピンという意味だと思う。

CHASE & FURNITURE


印刷機に掛けるまえの版の位置決め。圧力がなんどもかかるため、しっかりと固定する必要がある。

INKING & PRINTING


一台欲しいっ!
もちろん、機械の駆動方式はたくさんあって、版の上を通過する完全なローラーのものもある。たぶんそちらは音も静か(だと思う)。


オフセットラブな人は(同じシリーズの)こちらの動画を、こころゆくまで!

アルファベットの縦中横

昨日の続きと言えなくもないんですが。縦組み中でアルファベットを立てて組版する時、小文字(特にshort letter)の前のアキが気になることがあります。だから昨日の作例を見て「せうぞー甘めえなあ」と思われたかもしれません。

でだ。たまに見かけるのは、このアキをカーニング・トラッキングで手ヅメしている人がいる(プロポーショナルメトリクスは無効です)。途中まできれにツメて、ジャスティファイがかかってまたツメ直しみたいな^^。「文字ツメ」でツメるといいですよ。わかりやすいように文字ツメ100%をかけてみましょう。

ね! 字面いっぱいまでツメられます。ただし、本文中であんまりツメるとくどいので、ゆるめに詰めるのがいいかもしれません。また、小文字のアルファベットだけをツメたいのなら、正規表現検索で「[a-z]+」みたいに検索して文字ツメ属性(または文字スタイル)を適用してもいいかもしれません。

余談:縦組中の欧文組版

そもそも縦組での欧文は時計回り90度に寝かせるものだという人もいるかもしれません。いくつかのルールがあると思います。

  • アルファベットはすべて立たせる。
  • 文は寝かせるが、単語は立たせる。2単語以上でも固有名詞は立たせる。
  • 3文字(または4文字)以内のアルファベットは立たせる。
  • 大文字だけの単語(主に略語)は立たせる。

JIS X 4051(日本語文書の行組版方法)、JIS X 4052(日本語文書の組版指定交換形式)にはちょろっと書かれているけれど、明確なルールはないようです。制約のないところに美的要素を持たせるか、怠惰を滲ませるか、よくも悪くもといったところでしょうか。

アポストロフィーとかピリオドとかの縦中横

最近読んだ何冊かの本で、こんな組版を見かけた。

近頃、こういうのが流行ってるんですか? いや、T.Rexぢゃなくて...^^、アポストロフィーとかピリオドが付いた縦中横でズレる組版。1冊だけじゃなくて、何冊も立て続けなので、こっちが遅れてんのかと不安になる。わたし、縦組って滅多にやらないので、ハヤリスタリがわからないんだけど、普通こうだよね? ちがうの?


QXP以前DTPの黎明期*1だとこういうラフな感じも許容範囲だったと記憶するけど、21世紀にこれはないだろうと思うんだけどなあ。それぞれに編集者もいらっしゃるのだろうし。
InDesignだと「左右位置」を若干変えるだけでOKなんだけどな(移動量はフォントの字形や文字サイズによって変わります)。

必要ならば、文字スタイルを作っておいて...

正規表現検索するといいんじゃないかと思います。検索クエリは即席に考えたものだから甘いと思うけど...


置換文字に「結合なし」を仕込んでおけば、こんな感じで縦中横が続いても大丈夫。

*1:(追記:2009-10-06T14:37:34+0900)文脈が読めない人がいるみたいなので言葉を書き換えました。この文脈で電算写植の話なんかしてるわけないじゃないの!